内容の濃いドラマを半年間、毎日欠かさず見届けた。主人公は「明るくハツラツ」という朝ドラ定番の人物ではなく、怒り、悩み、ときに間違え、謝り、もがく人だった。
一言では感想を言い表せない、奥行きと深さのある作品だった。
毎日、違う、それだけでも深かったり重かったりするテーマが取り上げられていた。
簡潔に感想を書けないので、代わりに取り上げられたテーマを列挙しておこうと思う。
さまざまなテーマが取り上げられて、散らかっているように見える人もいるかもしれない。
でも、どのテーマも、結局のところ、今の言葉で言うDEI、多様性、公平(平等)、包摂(参加)に関わっている。
日本社会がたどってきたDEIの歴史。そこには多くの人たちによる苦闘があった。
EDIはけっして新しいものではない。その理念は日本国憲法、第14条に掲げられている。ドラマも轟・山田法律事務所の壁に条文を大きく掲げて、この条文が本作の鍵であることを示唆している。
要するに、『虎に翼』は新しいように見えて古くからある問題を提起している。
以下、気がついただけメモしただけでも、これだけのテーマを取り上げてきた。
- 旧民法下での女性の地位と権利
 - 女性の教育・社会進出
 - 書生のいる家
 - 生理痛
 - 家と身分
 - 家族とは
 - 友情とは
 - 夫婦とは(結婚とは)
 - ケアする側の人
 - 師弟愛とは
 - 同性愛
 - 戦争孤児
 - 非行少年
 - 性犯罪の被害者
 - 女性と職業
 - 家父長制(男性の責任)
 - キャリアウーマンと家庭生活
 - シングルマザーの子育て
 - 父親の記憶のない遺児の心理
 - 政治と法律と裁判
 - 離婚と親権(子にとって何が幸せか)
 - 嫁と姑
 - 遺言書と遺産相続
 - 法律とは(実定法の法源、基本的人権の意味)
 - 裁判官という職業
 - 新憲法と民法改正
 - 家庭裁判所の開設
 - 新民法877条(直系家族の相互扶養義務)
 - 戦病死者の無念
 - 在日朝鮮人
 - 少年犯罪
 - 闇市と法律(法律の理想と現実)
 - 日本国憲法
 - 憲法第14条(法のもとの平等)
 - 戦争孤児
 - 戦死遺族のグリーフ(悲嘆)とケア
 - 尊属殺人の違憲性
 - 殺人が犯罪である理由
 - 田舎のしきたりと法律
 - 障害者福祉
 - 水爆実験と第五福竜丸
 - 原爆裁判
 - 戦争未亡人の再婚
 - 夫婦別姓
 - 性転換
 - 同性婚
 - 事実婚
 - 遺言状
 - 同窓会
 - 再婚家庭
 - 女性の労働環境
 - 認知症(老年性痴呆)
 - 更年期障害
 - 暴力とは
 - 原爆症
 - 在日朝鮮人・韓国人
 - 学生運動
 - ガラスの天井
 - 東大安田講堂占拠
 - 尊属殺人違憲裁判
 - 少年法改正
 - 公害問題
 - 同和問題
 - 裁判官にとっての自由
 - 朝鮮人・韓国人被爆者
 - 自死
 - なぜ人を殺してはいけないか
 - 心の闇
 - 自死の遺族への影響(呪縛)
 - 親の心子知らず、子の心親知らず
 - 犯罪者の罪責感
 - 法律はあなたの味方
 - 地獄の道を喜んで進む者
 - 法とは
 - 愛とは
 
これだけのテーマを朝の15分間に詰め込んだのだから、「むずかしい」「重すぎる」という感想を持つ人がいることもわかる。これまでの朝ドラとはまったく違う雰囲気が漂う朝の15分間だった。
一つ、私が注目していたテーマは、喪失の悲しみに。主人公の寅子と外で活躍する主人公とは対照的に内でケアをする第2の主人公とも言える花江は、二人とも戦争で夫を、子は父を失った。ほかにも戦争で家族を失った人物が闇市にも新潟にも、GHQにもいた。
それぞれが抱く悲しみは戦後も長く癒えることがない、戦争がもたらす悲しみや苦しみが戦後も長く続くことを示唆していた。
戦争は戦闘が終われば終わりというものではない。悲しみはその後もずっと続いていく。
いまも、世界の各地で戦闘が続いている。戦闘の終わりすら見えない現在、悲しみはいつまで続くのか、見通すことはまったくできない。
ドラマは寅子を通して、この世界の現状に対しても、怒りをぶつけているようだった。
さくいん:NHKテレビ、『虎に翼』、米津玄師、悲嘆(グリーフ)、自死・自死遺族、闇(暗黒)